ウイルスと植物のせめぎ合い
ウイルスと植物の間では、多様な感染戦略と防御機構のせめぎ合いが繰り広げられています。ウイルスは感染を有利にする遺伝子や、植物の抗ウイルス防御機構から逃れるための遺伝子を進化の過程で獲得し、多くの場合、これらが植物に病気を起こす原因遺伝子となります。この特性を理解し、ウイルスによる作物の被害を抑えることを目的として研究をしています。
コウモリの生態を調べ未知のウイルスを知る
コウモリを自然宿主とする人獣共通感染症が世界的な問題になっています。自然宿主とは、感染が起きても症状が出ない動物のことです。コウモリの問題は、ヒトに危険なウイルスに感染しても発症しないで長距離を移動することです。我々が行っているウイルス研究の一つは、コウモリ由来ウイルスの網羅的な解析とそのウイルスに対する薬剤の探索です。またコウモリの生態学からみた疫学調査も研究の一つです。死に至るような強烈なウイルス感染症が起こるとき、それはまた、我々がウイルスゲノムを獲得する機会でもあります。このような観点から、ウイルスゲノムの哺乳類ゲノムへの内在化に関する研究も行っています。
新しいウイルスに対する防御方法はウイルスが教えてくれる
ウイルス感染に対し、哺乳類は細胞内ウイルスRNAを感知して反応するインターフェロン応答を介して防御しています。不思議なことに、この感知システムに関わる遺伝子群の多くはウイルスに似た内在性レトロウイルス(レトロトランスポゾンの一種)のDNA配列を含んでいます。これらのDNA配列がウイルス応答遺伝子の発現制御にどのように関わっているのかを調べています。
化学の力でコロナウイルス治療薬を開発する
新型コロナウイルス感染症はSARS-Co-V2ウイルスによって引き起こされます。名古屋大学は世界をリードする化合物ライブラリを有しており、それらを用いて抗SARS-Co-V2薬の開発に取り組んでいます。
昆虫ウイルスの力でワクチンをつくる
バキュロウイルスが昆虫に感染すると、昆虫の細胞の機能をのっとって、大量のタンパク質を合成させます。この仕組みを利用したタンパク質大量合成システムは、ワクチン産生などにも活用されていますが、どのようなメカニズムで大量のタンパク質合成が達成されているのかは明らかにされていません。私たちは、より効率的で安全なバキュロウイルスタンパク質合成システムの開発を目指して、このメカニズムの解明に取り組んでいます。
ワクチン産生に適したスーパーニワトリを作出する
ニワトリの卵は優れたワクチン生産系でもあります。遺伝子改変によりワクチン生産にさらに適したスーパーニワトリの作製を目指しています。また、インフルエンザ抵抗性ニワトリの育種を進めています。インフルエンザから養鶏業を守るだけでなく、鳥と人間の間で感染のやりとりをしているうちにインフルエンザが強毒化することも防げるようになると期待されます。